あの新海誠監督が山陰にやってきた!米子は「僕の出身地からすると都会」だって!?

編集部みずっち
編集部みずっち

日本を代表するアニメーション監督が山陰の地に

みなさん、こんにちは。山陰のタウン情報誌「ラズダ」の編集部みずっちです。

あの大ヒットアニメ映画「君の名は。」(2016)や、2019年に公開された「天気の子」など数々のヒット作品を手掛けるアニメーション監督・新海誠監督

絶賛公開中の最新作『すずめの戸締まり』の主人公「すずめ」のように、舞台挨拶で全国を走り続けています。そんな中、山陰にも新海誠監督がやって来るということで、恐れ多くも私、編集部みずっちがインタビューさせていただきましたよ!

山陰の話、最新作についてなどいろいろ聞いてみました。(めちゃくちゃ緊張した!)

日常の中にコンテンツがある

― 島根県に来るのは20年ぶりとお聞きしました。改めて島根県に来てみてどんな印象ですか?

新海誠監督(以下、新海) 実は20年ぶりと言っても、ほとんど初めてのようなものでして。

日本SF大会というずっと長く続いているSFのコンベンション(大会)があるんですけど、20年前、デビュー作でつくった『ほしのこえ』(2002)がそこで「星雲賞」をいただいたことがありました。

その大会の開催地だったので島根県に来たことがあるのですが、そのコンベンションにしか行かなかったので、これからみなさんに島根県のことをいろいろ教えてほしいなと思っています。

― 先ほどは鳥取県で舞台挨拶をされていましたが鳥取県の印象はどうですか?

新海 米子鬼太郎空港に初めて降りました。水木しげる先生は鳥取県のご出身で、鳥取市には鳥取砂丘コナン空港もあり、青山剛昌先生も鳥取なんですよね。

だから、いろんなコンテンツと紐付いているんだなというのが印象深かったです。空港名だけではなく、電車の駅には鬼太郎駅(境港駅)も。日常の中に妖怪であったりとかキャラクターであったりとか、そういったものを日常で親しんでいる方々なんだなと思いました。

舞台挨拶では、最初はみなさん比較的穏やかで静かな印象だったのですが、最後の質疑応答ではすごく激しい勢いでいっぱい手を上げてくださって、「あっ、意外にみなさん積極的だったりするんだ」と(笑)。

なので、ちょっと穏やかで静かな印象と、でも好きなものには前のめりになるような愛らしさみたいなものを感じました。

― 鳥取県は日本の中でも人口最少の田舎です。最新作「すずめの戸締まり」では田舎と都会の対比がポイントに感じます。

新海 僕自身、長野県の佐久地方というすごく田舎の出身で、標高1000m近いような小さな町で生まれ育ちました。なので、割と田舎は実感を持って描けると思っています。

ただ、それと同時に、高校を卒業してからは大学進学のために上京して、今では東京に住んでいる時間の方が長いです。東京のような大きな都市も自分の生活実感の中にあるんですね。

「こういう場所で暮らすって、こういう感覚がするものだよね」という自分の体験を物語の中で描いているつもりです。なので必然的に田舎の風景も出てくるし、あるいはコントラスト的に大都会の風景も出てくるのだと思います。

僕が中規模の都市で育っていたら、映画に登場する風景も変わっていたかもしれません。だけど、そういうところへの憧れはあります。米子も車で通っていると、ロードサイドにはたくさんお店があったりして、僕の田舎からするとけっこうな都会に見えました。

― 米子でも都会だと思うくらいですか?

新海 そうですね、過疎の町だったので(笑)。

なので、繁華街があるような町で暮らしてみたかった。あるいはこれから暮らしてみたい気持ちはありますね。

いま住んでいる場所がずっとは続かないかもしれない

― ここ最近、出雲には大きな地震や台風などの災害が少ないです。出雲の方々は『出雲大社』があることで神様に守られているという感覚がありますが、どのように思いますか?

新海 うらやましいです。土地が守られている感覚の中で暮らせるのは、すごく幸せなことなんじゃないかと思います。

僕は東京に家と家族を持つ、東京の人間。やはりいつか来るであろう災害は、僕らは結構シリアスに捉えているんですよ。防災グッズがだいたいの家庭にありますし、自分たちの見ている風景は、もしかしたらガラッと変わってしまうかもしれない気持ちは常にあるんですね。

― 私も東京で生活をしていたときには常にどこか危機感を持っていました。

新海 100年、200年、あるいは500年、1000年変わらない安定した場所に住んでいる人もたくさんいます。そういう土地に住んでいる人って、創作するものも何か変わってくるような気がするんですよね。常に来たるべき災害に備えるようなトーンのある映画を僕が作り続けてしまうのは、やはり自分の住んでいる場所に危機のようなものを感じているからだと思うんです。

自分のいま住んでいる場所がずっとは続かないかもしれない無常観のようなものが、どうしても染み付いているからそのような映画になるのだと思います。その感覚が無いまま物を作るのは、どういう感じなんだろうとも思ったりします。

出雲の方にはその感覚が理解できるのかもしれないですよね。なかなか興味深いです。

 ― 最新作「すずめの戸締まり」で九州から東京へと旅する中でこだわりの描写があれば教えて下さい。

新海 「すずめの戸締まり」はロードムービーです。実際あの映画の中で過ごしている日数は、数日間くらいの意外と短い旅。でも日本って、数日北上していくだけで言葉も景色もどんどん変わるわけですよね。同じ季節でも移動するだけで風景の色が変わる。

言葉にしても地域ごとに違うので、各地の出身のスタッフに方言指導をしてもらって作っていきました。あるいは食べ物だったりとか、日本列島って小さいようでいて、こんなに移り変わりの多様性がある。それを映画の中で表現したいと思い、細かな差異を随所で表現していますね。

自分の中にないものを出す一苦労

― 本作は「すずめ」が住む九州の町が漁港で、山陰にもよく似た景色や音が多くありました。

新海 ゴールを東北にしようと決めていたので、スタートはなるべく西の方にしたいと思っていました。

沖縄とかも選択肢はあるんですけど、映画の尺もあるし、遠すぎるのもな・・・と思い、九州にしようと。なので、九州出発ということは物語から必然的に導かれました。九州の街だとやはり港町が多いでしょうから、自然と物語から導かれて港町を舞台にしたんですね。

― そうだったんですね。私は境港という港町に住んでいるので見慣れた風景に親近感が湧きました。

新海 ただ、それを描くにあたって僕も美術監督(美術背景を統括する監督)の丹治匠さんも山育ちなんですよね、港の育ちじゃなくて。

映画的には港を描かなければいけないけど「ちょっとよく分かんないね」みたいな話から、実際に九州にロケハンに行って、写真を何千枚と撮りました。漁協へ行って、漁協の人の話を聞いたりしながら組み立てていきました。

自分の中に無いものを映画の中に出そうとすると、やっぱりひと苦労がありますよね。一方でその土地に対する憧れみたいなものもあります。僕は八ヶ岳を眺めながら育ちましたが、「海を眺めながら育ったらまた違った人間になっていたんだろうな」とすごく感じます。水平線を眺めながら毎日育つ人生もあるでしょうし。

― 私も山陰に来てからガラリと趣味やら何やらが変わったので本当におっしゃる通りだと思います。

新海 本当ですよね。ちょっと羨ましいです。

こんなことも聞いてみた!

― 「まんが王国とっとり」と呼ばれる鳥取県からは「ゲゲゲの鬼太郎」の水木しげる先生、「名探偵コナン」の青山剛昌先生、「孤独のグルメ」の作画を手掛けた谷口ジロー先生といった有名漫画家が多数誕生しています。新海監督から見てなぜだと思いますか?

新海 水木しげる先生も谷口ジロー先生も、すごく絵が緻密ですよね。水木しげる先生のあの画も、キャラクターの魅力はもちろんですけど、その後ろに描かれている背景とかが本当に緻密。今だったら写真をベースにする描き方もありますけど、当時はそういったものないと思うので、そこも凄さだと思います。

谷口先生の描線も本当に美しくて写実的。お二人だけではサンプルとして少ないかもしれませんが、見たままを画面に写し取るようなことをさせる景色の魅力が鳥取にはあるんですかね。僕はまだ鳥取の道を一歩も歩いていないので分かりませんが(笑)。

― 一同(笑)

新海 ただ、あのような写実的な描線を描かれる代表格のようなお二人が、揃って鳥取県ご出身というのは何か不思議ですね。

― 山陰は自然がすごく身近なのも理由のひとつかもしれませんね。

新海 あとは神様が身近なのかもしれません。出雲があって、黄泉平坂など古事記の舞台のような場所もあって、あとは因幡の白兎も。古代からの人間を超えた想像力というか、人間以外の生き物も人間の生活と関わり合っているような。

自然そのものが神様という感覚もあったと思いますけど、人間の力を超えた大きなもの(自然や神様)を大切にしたり、そういうものへの感受性が高い人々なのかもしれませんね。山の中に何か神様の姿を見て、それを絵に投影するなど、そういうことを人にさせる土地かもしれないですね。

― 山陰では新しいお店(例:セブンイレブン、ドミノピザなど)ができるごとによく行列ができます(山陰あるある)。新海監督は過去に何かの行列に並んだりしたことはありますか?

新海 いやあ、並ぶのがあまり得意じゃなくて(笑)。東京でも人気店などで並んでいるのを見かけますが、並んだことは一度もないですね。

― そうなんですね、味とか気になりませんか?

新海 お店が落ち着いてくる一年後、二年後くらいでいいかなみたいな気持ちにはなりますけど(笑)。ただ、東京で人気店に並ぶのと、山陰で新しいお店に並ぶ感覚とでは、またちょっと違うと思うんですよね。

― 確かにそうかもしれませんね。私はよく東京で行列に並んだのでその感覚がわかります。

新海 こちらの方が楽しそうですよね。ちょっとした自虐みたいなものも地元のみなさんと話していると感じるんですけど(笑)。人口最小でお店が来るのも最後で、みたいな。

でもそこも含めてすごくみなさんが楽しんでいらっしゃって、愛情を持って町を愛しているんだなっていうのは感じています。そういう中で暮らしてみたいというのはすごく思います。

東京で並ぶのは嫌だけど、山陰であれば並んでみたいかもしれないですね(笑)。

公式Twitterで舞台挨拶の様子がチラ見できる!

最新作『すずめの戸締まり』の公開を記念した全国舞台挨拶キャンペーン「行ってきます日本」

公式Twitterでは舞台挨拶の様子を写真でチラっと見ることができます!その他映画に関する特典情報や新海誠監督の様子も見れますのでぜひチェックしてみてくださいね。

全国東宝系にて公開中

原作・脚本・監督:新海誠
声の出演:原菜乃華、松村北斗 ほか
キャラクターデザイン:田中将賀
作画監督:土屋堅一
美術監督:丹治匠
制作:コミックス・ウェーブ・フィルム
制作プロデュース:STORY inc.

山陰だから感じる“共感”

私たちの緊張を察していただいたのか、インタビュー冒頭から気さくにお話をしていただいた新海誠監督。

柔らかく優しい雰囲気が私たちを包み込んで、山陰のこともたっぷりお話してもらいました。すごく貴重で贅沢なひとときをありがとうございました!

山陰で生活をおくる中で観た「すずめの戸締まり」は、日々の中で見る景色とどこか似た場面も。

きっとみなさんも同じようにローカルな環境だからこそ感じる“共感”があると思うので、まだ観てない人は映画館へレッツゴー!

最新作『すずめの戸締まり』

スズメノトジマリ
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※掲載の情報は、記事公開時点の内容です。
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この記事を書いた人
編集部みずっち

タウン情報ラズダ編集部

編集部みずっち

日刊webラズダ編集部。愛知県出身→東京→大阪→境港市在住(Iターン)。
だいたい2週間に一回坊主頭にしている三十路父ちゃん。「顔色悪いよ?」と心配されるので髭を剃るのはやめました。

DIYで家をリフォームしてみたり、畑仕事やら釣りやらバーベキューやらとやったことのないことにチャレンジ中。
楽しいことに夢中になるとついつい時間を忘れて、次の日は大抵体がしんどいです・・・。

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